08月15日 (土)

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『黒猫のレオン』




十三年前、私がまだ高校生だった頃、学校から帰ると母が子猫を拾ってきていた。

オスの黒猫。

「親猫とはぐれたらしくて、ミーミー、泣いていた、だから名前は『ミミちゃん』にする」と言い出した。

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「いや、オスなんだし、その名付け方はあまりにもテキトーでしょ」と突っ込んだ。

「じゃあ、あなたが考えなさいよ」と言い返され、しばらく熟考。


「…『レオン』なんてどう?」

レオン

当時、『レオン』という古い映画がクラスで流行っていた。

孤独な殺し屋を演ずるジャン・レノがやたらかっこいい。


母はあんまり気にいっていないようだったが、『ミミちゃん』よりかはマシだと思う。

でも映画の『レオン』と違って、寂しがり屋なのか、母や私にやたら擦り寄ってくる。

リビングではいつもくっついてきて、私の足の上に乗っかってきては、丸くなる。

お風呂にまでついてきて、私が上がるまでずっとドアの前で待っている。

勉強に集中したいから、自分の部屋のドアを閉めていると、ずっとドアをカリカリして、開けてとせがんでくる。


レオンはそういう猫だった。

高校、大学を出るまでは、実家暮らしだった私も就職してからは一人暮らし。

それでも年に数回は実家に戻る。

私が実家に戻ると、いつもレオンはそのふわふわの毛皮で体を擦り付けてくる。

もう猫としては十分におっさんなのに、その寂しがり屋の性格は変わらない。

寂しがり屋のおっさん

私が実家を出てから、母はレオンを「ミミちゃん」と呼ぶようになっていた。

その度に「レオンだってば!」と言うのだけれど、母はもう直す気はないらしかった。


甘えてくるレオンとだらだら過ごす。実家に戻るときの私の楽しみだった。

去年のお盆、実家に帰省した。


私が「レオン」と呼ぶと、いつも駆け寄ってくるのに、なんだかふらついている。

明らかに様子がおかしかった。慌てた私は母に車を出してもらい、動物病院へと急いだ。


「レオン、大丈夫だからね」


そう私は声をかける。

でも私の膝の上に抱かれたままレオンは冷たくなっていった。


心臓疾患だった。

最近の猫は長生きで、二十歳くらいまで生きる子も多い。

そんな話を聞いていたから、まだまだ大丈夫だと勝手に思い込んでいた。


病院でお医者様に診てもらったあと、母はレオンの亡骸をだいて「ミミちゃん…」と小さく呼んで、涙をポロポロとこぼした。


「レオンだよ」と言いかけたが、声にはならなかった。


それから一年。

実家に帰ると、母はまたどこからか子猫を拾ってきていた。

もう猫無しの生活は考えられないらしい。


今度はメスの白猫。

メスの白猫

名前は「レオン」。


…母よ。メスなんだから「ミミちゃん」にしようよ。。